Human Experience

公開日:2019.06.06

働き方改革関連法がワークプレイスを見直す機会に

4月1日から施行された「働き方改革関連法」。8つの労働法が一度に改正され、これまで以上に働きやすい環境を整備するように企業へ求める内容だ。中でも時間外労働の罰則付き上限規制がなされた点は喫緊の課題となるが、この改正を機に抜本的なワークプレイス改革が求められそうだ。

人手不足と労働時間の抑制で生産性向上が求められる

「働き方改革関連法」の具体的な改正内容はこうだ。①時間外労働の罰則付き上限規制の導入、②同一労働・同一賃金の適用、③年次有給休暇の5日間取得義務化、④勤務間インターバル制度の導入促進、⑤産業医の機能強化、⑥フレックスタイム制の拡充、⑦高度プロフェッショナル制度の導入、⑧月60時間超残業に対する割増賃金率の引き上げ。厚生労働省が説明する通り「働く人々が、個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で『選択』できるようにする」ことが骨子だ。

中でも、企業にとって喫緊の課題となるのは「①時間外労働の罰則付き上限規制の導入」だろう。これまでの36協定を結ぶことで「1日8時間、週45時間」以上の時間外労働が可能だった。大臣告示によって時間外労働の上限が設けられていたが、罰則規定がなく、特別条項を設けることで上限なく時間外労働を行わせることが可能だった。今回の法改正では時間外労働の上限は原則月45時間・年360時間となり、特別な事情があって労使が合意する場合は延長可能だが「時間外労働が年720時間以内」「時間外労働+休日労働の合計が付き100時間未満」「2-6カ月平均すべて1か月あたり80時間以内」「月45時間超えるのは年6カ月が限度」といった絶対的な上限規制が設けられる。違反すると6カ月以下の懲役か、30万年以下の罰金が科せられるが、企業にとってブランド価値やイメージ低下のほうが痛手になりそうだ。「ブラック企業」叩きはSNS等で瞬く間に広がってしまう。人手不足が進む現在の日本において、こうしたマイナスイメージが伝わることで優秀な人材を確保するのは更に難しくなる。

ワーカーにとってこの改正は喜ぶべきところだが、企業にとっては総体的な労働時間を抑制しなくてはならず、生産性が低下することで業績悪化に陥りかねない。企業側の対策としては組織体制や業務の進め方を効率化する等、様々なアプローチが考えられるが、いずれにしてもうまく機能するまでに時間がかかるだろう。

そうした中、1つの解決策として注目されるのが外部貸しのサテライトオフィスの活用だ。郊外にある営業先に訪問した担当者が報告書を作成・提出するためだけに都心の本社オフィスまで戻ってくるのは非効率だ。また訪問時間の隙間時間をカフェ等で待機している営業マンの姿を見かけることも多いが、明らかに労働時間の浪費だろう。最寄りのサテライトオフィスで仕事をすれば生産性向上に寄与するはずだ。企業自らサテライトオフィスを開設するのは賃料や内装設備の費用負担がネックになっていたが、現在は大手不動産会社や鉄道会社が外部貸しに特化したサテライトオフィスの供給を進めており、利用しやすい環境も整いつつある。

長期的視点で抜本的なワークプレイス改革が必要

ただし、サテライトオフィスの活用はあくまでも「対症療法」に過ぎない。法令を遵守すればよいという単純な問題ではなく、法改正の背後にある「人手不足」という本質的な課題を見失うと、抜本的な解決は困難だ。この点についてJLL日本 コーポレート営業本部長 佐藤 俊朗は「人手不足の中、総労働時間が規制によって縮小されるため、潜在的なオフィスワーカーを掘り起こさなくては生産性が維持できない。将来性豊かな若者世代のみならず、子育て等で労働市場から外れていた女性や、リタイアしたシニア世代の登用を必要がある」と指摘する。

託児機能を備えたサテライトオフィスも整備されるようになり、育児や介護等で長時間の通勤が難しい女性にとっては確かに働きやすい環境かもしれない。しかし長時間座ったまま事務作業をこなすのはシニア世代にとっては健康面で不安があり、彼らが有する豊富な経験やスキルを最大限活かすことができない。一方、企業の将来を担う若年層は「デジタルネイティブ」等と呼ばれ、働く場所に対して多様な選択肢を求める傾向が強い。これに加えて、外国人労働者の登用も視野に入る。佐藤は「新たな働き手も含め、多様な人材が働けるオフィス環境を考えることは経営層にとって重大な課題になっている」と説く。働く場に対する多様な価値観すべてを満たす「働き甲斐のあるワークプレイス」が求められているのだ。

ヒト中心のワークプレイス

「働き甲斐のあるワークプレイス」とはどのようなものか。JLLでは、人が中心となり、人の体験によってオフィス・企業の生産性が変わってくるという「ヒューマン・エクスペリエンス」の実現することが必要不可欠であると分析している。「働く場所や働き方を自らコントロールでき、居心地がいい」という、ヒトが主役となって優良な「体験」ができるワークプレイスを構築することで生産性が格段に伸び、人の働き方そのものを変革することができるのではないだろうか。

日本企業の平均的なワークプレイスはスペース効率のみを重視し、クリエイティブな刺激や柔軟さに欠けており、従業員のモチベーションに悪影響を及ぼす傾向が強く、結果として生産性を抑制していた。働き方改革関連法を機に、長期的視点をもってヒトを中心としたワークプレイス改革に取り組んでみてはいかがだろう。

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