Human Experience

公開日:2019.08.06

世界各地で広がるホテルとコワーキングの融合

世界各地で広がりを見せるコワーキングスペース人気を受けて、ホテル業界もコワーキング市場参入へ舵を切り始めている。グローバルレベルで働き方の多様化・流動化が見直される中、柔軟な働き方に適応しようと模索しているのはオフィスだけではないようだ。

旺盛な需要を背景にホテルがコワーキング機能を取り入れている

社オフィス以外で柔軟に働く場所を選べる「フレキシブルスペース」が世界的な盛り上げりを見せている。フレキシブルスペースとはシェアオフィスやサテライトオフィス、コワーキングスペースといった外部貸しの共有オフィスを指す。都心のAグレードオフィス等に大型施設を開業するフレキシブルスペースの運営事業者が話題になっているが、このブームを取り入れているのはオフィスだけではない。「労働」とは無縁と思えたホテルでコワーキングを取り入れるケースが世界的に増加している。十分に稼働していない共有エリアや時代遅れな宴会場を近代的で活気あふれるコワーキングスペースへと変貌させているのだ。

象徴的な事例は米国の「バージン・ホテルズ・シカゴ」だ。バーやプライベートな会議室、無料の飲料、ライブラリー、Wi-Fi、ワイヤレス印刷等の各種サービスを提供するコワーキングスペース「バージン・コモンズ・クラブ」を企画した。また、ライフスタイルホテルの先駆けともいわれるニューヨークの「エースホテル」のロビーには、スマートフォンやPCを充電できる電源と共用テーブル、スタンプタウンのコーヒーとグルテンフリーのブラウニーを提供するロビーバーが「働く場」として整備されている。

こうしたスペースはわずかな空き時間でも業務に充てたい多忙なビジネス・エグゼクティブのみならず、より幅広いワーカーを惹きつけるように設計されている。多くの企業が柔軟な働き方が可能な業務方針(働き方改革)に目を向け、スタートアップ企業やフリーランサーが労働力に占める割合が増えるにつれて、コミュニティー感覚が感じられる環境で仕事ができるスペースの需要が高まっているようだ。JLLキャピタルマーケット リサーチディレクター ラウロ・フェローニは「ホテルの立場からすれば、これは大きな事業機会となり得る。コワーキングスペースへの需要は依然として強く、ホテル事業者がその需要の一部でも取り込もうと努力すれば一定以上の成果が得られる可能性は高い」と指摘する。

新しいタイプのホテルロビー

ホテルの最大の特長ともいえる広大なロビー空間は、そのままコワーキングスペースに転用できる有望な空間だ。宿泊客が比較的少ない平日でもコワーキングスペースをきっかけに収益増加が期待でき、働く場所を求める人々に対して使い勝手の良いオフィス什器の他、電源、無料Wi-Fiや飲食料等を使用できる。

ロビーの「ワークスペース化」のパイオニアは前述した「エースホテル」が挙げられるが、コワーキング利用者には施設使用料を課していないケースも少なくない。それでいて事業上のメリットを認めている。その理由について、フェローは「ホテル内のバーやカフェにより多くの客が訪れ、同時にホテルの『ブランド知名度』も高められるため」と説明する。つまり、ニューヨークにある「エースホテル」のロビーで仕事をしたワーカーが、それを優れた体験だと評価すれば、将来的にロンドン・ショーディッチ地区にある「エースホテル」に宿泊する可能性が高まるというわけだ。

JLLヨーロッパ・中東・アフリカ地域 コーポレート・リサーチ ヘッド トム・キャロルは「コワーキングとホテルには自然な合流点がある。ホテル業界にとって高級なサービスやアメニティを提供して優れたユーザー体験を創出することが全てだ。そしてそれこそが、伝統的なオフィス、ホテルのロビー、外部のコワーキングスペースを問わず、今日のワーカーがワークプレイスに多くの期待をかけるようになっている理由だ」と述べている。

今では、より多くのホテルグループが個性的なコワーキングスペースを提供している。「モクシー・バイ・マリオット」では、ラウンジや仕事用に改装された共用スペースをホテルの宿泊客と一般市民の両者に開放している。同ホテルブランドは2017年11月に日本初進出となる「モクシー東京錦糸町」と「モクシー大阪本町」を開業しており、「交流」を視野に入れたコワーキング機能をそのまま踏襲しているのが特長だ。これと同様にシェラトン・チェーンも400超のロビーを改装し、電源、USBポート、レンタルキャビネット等を含む「プロダクティビティー・テーブル」を整備するとの報道がなされている。

そして一部のホテルでは更に一歩進んだコワーキングを実践している。例えばストックホルムの「ザ・ホーボー」は起業家が製品を展示する「SPACEby」という特設エリアを用意している。

利用料が発生するケースも

しかし、あらゆるホテルが無料でコワーキングスペースを提供しているわけではない。一部の事業者は働きやすさを追求した環境を有料で提供する、より一般的なコワーキングスペースに近い「場所貸し」モデルを採用している。例えばウィーンの「ホテル・シャニー・ウィーン」は、100米ドル相当の金額で10日間ロビーをコワーキングとして使用できるパス(利用券)を発行している。また、利用者に月会費を課していた前述の「ザ・バージン・ホテル」のような事例もある。また、ドバイのトリップ・バイ・ウィンダムのコワーキングスペース「NEST」では、コワーカーはシックなフレックスワーク環境で他のクリエイティブな人材と交流しつつ、有料のジムやプールも利用可能、コーヒーは飲み放題となっている。

日本では交流型賃貸マンション(ソーシャルアパートメント)事業やライフスタイルホテル事業を展開するグローバルエージェンツが2017年7月にホテル機能を備えたコワーキングスペース「アンドワーク京都」を開業させたのが好例だろう。利用料は月額制。ホテル客室を含めて24時間365日ホテルサービスを利用できる。主体はコワーキングスペースで、ホテル機能が付随している形だ。

こうした動向について、フェローニは「フランスのホテルブランドである『ママ・シェルター』や、マイアミとラテンアメリカで営業する『セリナ』等のホテルグループは『デジタル遊牧民』をホテル宿泊客に変えるためにコワーキングスペースを活用している。より若い世代の旅行者を対象としたブランドは、ホテル体験の一環としてコワーキング要素を提供することが多い」と解説している。

成功のレシピ

世界的にコワーキングスペースのニーズが高まっているのは確かだが、あらゆるホテルに適したムーブメントとはならないだろう。その理由について、キャロルは「コワーキングエリアのサービスを成功させるには、単に便利な仕事場を提供するだけではなく、ホテルのブランドと利用者のニーズの両方を満たす環境をつくり上げるのが難しいため」と説明する。また、フェローニは「Aグレードオフィスで提供されるWi-Fi環境と同等以上のスペックを提供する等、テクノロジー関連の全ての要素を高レベルで備えるのはハードルが高い」と指摘する。

加えて、仕事目的ではない宿泊客のための活気ある環境と、プレゼンテーション資料の作成等、集中できる静かな環境を両立させるバランス感覚も必要不可欠だ。

フェローニは「静かな環境は必須であり、業者は音楽等の音量についても十分考慮しなければならない」と指摘する。スペースは十分に静かであるか。そしてクールなスペースにするためには何をすればよいか。視覚的なセンターピースとは何か…例えばアート作品等を用意しなくてはならないだろう。

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