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公開日:2019.06.25

賃貸マーケットで存在感を高める「進化形」中小ビル

Aグレードオフィスに比べてスペックに劣ると考えられてきた、Bグレードオフィスを含む「中小ビル」の進化が著しい。大手デベロッパーが展開する中規模ブランドビルをはじめ、築年を感じさせないリニューアルオフィスなど、人材獲得や企業イメージの向上といったテナントニーズを満たす仕掛けづくりで人気を博している。

テナントニーズが最も厚い中小企業

JLL日本 リサーチ事業部の調査によると、2018年第4四半期末時点の東京Bグレードオフィス市場の空室率は0.4%で7四半期にわたって空室率が改善し、賃料上昇率も前年比5.3%増となった。JLLが定義するBグレードオフィスとは東京中心業務地区(千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区)に位置し、延床面積5,000㎡以上、基準階面積300㎡以上、1982年以降に竣工した新耐震基準適合物件を指す。

Bグレードの需要を支えるのは日本に存在する法人の約9割を占める中小企業だ。テナントニーズが最も厚く、加えて人手不足に直面する多くの中小企業は人材獲得を少しでも有利に進めようとオフィスに対して前向きに投資する傾向にある。彼らのニーズに合致した新築物件の供給も増加傾向にあり、Bグレードオフィス市場をけん引している。

 

大手デベロッパーの新規供給が増加、ハイスペック化が顕著に

ハイスペックなBグレードオフィスの供給元となっているのは大手デベロッパーだ。先駆けは野村不動産。2008年からミッドサイズオフィスビル「PMO(プレミアム・ミッドサイズ・オフィス)」の新規開発を開始し、東京圏で30棟超の供給実績を積み上げている。施設規模でみるとBグレード以下のケースも少なくないが、Aグレード並みのクオリティを「中規模オフィス(Bグレード)」で提供するというコンセプトが奏功。オフィスへの投資を成長のドライバーとして前向きに検討する中小企業に人気を博してる。また、Aグレードオフィスに居を構える大手企業が本社オフィスとの「オフィス格差」を解消する目的で、彼らの分室・関連会社を入居させるケースも少なくない。同様のコンセプトでは、サンケイビルが「S-GATE」、日鉄興和不動産が「Bizcore」を展開している。オフィス市場に詳しいJLL日本 マーケット事業部 木村によると「同規模の既存オフィスに比べてグレード感が高く、いずれの物件も人気が高い」と説明する。50坪―150坪のワンフロアに対してテナントは基本1社のみ。エントランスの天井高が3m超で開放感があり、整形無柱空間やグリッド天井等、レイアウトが組みやすい。建物規模こそ小ぶりだが、高度な耐震性、非常用発電機等のBCP対策も充実している。

一方、Bグレードよりも小さい、いわゆる「コンパクトオフィス」も進化している。木村は「バリューアップ物件が増加したことでビルスペックが二極化している」と述べるが、この分野においても大手デベロッパーが参入し始めている。例えば、三菱地所が2019年1月、ワンフロア100㎡(30坪)-330㎡(100坪)規模のオフィス開発事業に参入。ブランド名を「CIRCLES」とし、今後5年で計30棟を開発する計画を打ち出した。また住友商事は2018年3月に「チームを強くする」をコンセプトにしたコンパクトオフィス「麹町PREX」を開発、2020年までに5棟の「PREX」シリーズを展開していくと発表した。

デベロッパーが手掛ける新築の中小ビル群はガラスカーテンウォールが主流で、建物外観の見栄えが良く、屋上テラスや会議室、ラウンジ機能といった共用部が充実しているのが特長だ。築古ビルに比べて人材採用面で有利になることも人気を支えている。木村によると「こうしたオフィスは同規模のビルの中では賃料相場が高めなので業績が好調な企業が入居するケースが多く、そうすると事業拡大に伴う増床移転の回転率が速い。特に爆発的な成長力を持つベンチャー企業にとって資金調達が容易な環境ということもあり、入退去が繰り返され、半年から1年ほどで募集賃料が坪当たり3,000円-5,000円程度上がることも珍しくない」という。

 

既存オフィスをバリューアップ工事で再生

高機能かつ視認性の高い中小ビルが新規供給されることで、既存オフィスにとっては手強い競合相手となる。立地が良ければオフィスニーズはついてくるだろうが、オフィス集積地「都心3区/5区」に含まれる千代田区でも駅からの距離があったり、住宅地近郊等

のオフィスニーズが弱含みのエリアは存在し、苦戦する既存オフィスも少なくないようだ。ただし、木村は「セカンド立地に存在する低稼働ビルを取得後、全面リニューアル工事を施し、収益物件として再販されるケースも増えている」とし、賃貸マーケットにおいて一定の存在感を発揮しているという。いちごオフィスリート投資法人やトーセイリート投資法人、Oneリート投資法人など、ポートフォリオに中小ビルを多数抱える上場REITをはじめ、サンフロンティア不動産やボルテックス、コスモスイニシア等の中堅不動産会社が注力している。

築年が経過し、資産価値を最大限生かし切れていない物件が多く、バリューアップによる賃料のアップサイドが見込める。そして投資家は外資系ファンドや上場REITといった「プロ」はもとより、個人富裕層や一般事業会社も対象になり、すそ野が広い点も見逃せない。

 

成約賃料が大幅に増加するケースも少なくない

バリューアップの効果は成約賃料を見れば一目瞭然だ。中規模オフィスをポートフォリオに組み入れている上場REITの日本リート投資法人の2018年12月期決算説明会資料によると、入居テナントがオフィスレイアウトや家具等を自由に選択でき、内装費を賃貸人が負担する「セレクトオフィス」を実施したオフィスビル「グリーンオーク高輪台」で1坪あたり月額5,000円高い賃料で成約したという。また、いちごオフィス投資法人では「価値向上CAPEXの実施によるバリューアップと投資効率の追及」をアクションプランに掲げており、「いちご神保町ビル」で1,400万円を投じ、賃料アップ率75%、NOIは年間610万円増加を達成している。エリアによって賃料の伸びしろは異なるが、木村によると「新規募集が坪当たり17,000円―18,000円のエリアにあって、一部のバリューアップ物件では坪当たり23,000円での成約もみられる」という。トイレのリニューアルやLED導入、1階エントランスの全面刷新といったところが改修工事の定番だが、中には共用スペースとしてカフェラウンジを設けたり、専有部の執務室の内装デザインをオーナーが負担したり、AIを導入して快適居住性の向上を狙った実験的賃貸フロアを有す物件も登場している。

人手不足による人材採用難、働き方改革の機運が高まり、より快適性の高いオフィス需要が高まる中で、中小ビルに求められるスペックも高レベルなものになりつつある。単純に「場所を貸す」だけではテナントはついてこない時代がすでに始まっている。

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